夫の埋葬が無事に済んだ。
夫の大学時代の親友の両親のお陰で
彼らの所有地の一角にお墓が作られた。
彼の大好きな静かな森の中、
鳥の声に囲まれ、
手彫りのレッドウッドの墓標の下
55年の今世のしがらみから
解き放たれて静かに眠っている。
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悪夢の中で父と弟に救急車を呼ぶように叫びながら、
目が覚めた。
親猫に噛まれ、血だらけでぐったりとした子猫を
なんとか助けようとしていた。
(夢じゃなかったら、猫に救急車は呼ばないだろうな。)
5時、まだ外は暗い。
いやーな気分のまま1日が始まった。
「あー、長い1日になるなー。」
ぼやきながら朝のルーティンを経て
職場に車を走らせた。
仕事場では携帯電話は無音にしている。
ちょっとややこしいケースの学生と大学付属の託児園の入園手続きをしていたので、
彼女が書類に必要事項を記入している間にメッセージをチェックした。
着信してから30分ほど経っていた。
夫の仕事場からだった。『あなたの電話番号が緊急時の連絡先になっていたので
電話をしています。彼がまだ仕事に来ていません。無断欠勤をするような人では
無いので、何か事故に巻き込まれたのでは無いかと思い心配しています。
恐れ入りますが、このメッセージを受け取ったらこちらまでご連絡ください。』
背筋にゾクッと悪寒が走り、反射的に折り返し電話をかけた。
あの人に限って無断欠勤は絶対にあり得ない!!
彼の上司が電話に出た。「彼に限って無断欠勤はあり得ません。私が
彼のアパートに行って確認します。」
そう言い切って、学生には緊急の用事ができたので、後日ゆっくりと
アポイントを取ることを約束し、同僚に説明をして彼のアパートに向かった運転をしながらも、もしかして一刻を争う状況になっているのでは無いかと
心配で仕方がなかった。
一応、近くで働いている長女に電話をした。彼女は地下の倉庫で働いて
いるため電波が届かず、事務所の方に電話をして呼び出してもらった。
「仕事中にごめんね。お父さんが無断欠勤しているって職場から連絡をもらったの。
私はこれからアパートに行く。仕事が終わったらできるだけ早く来てくれる?」
第2話に続く。
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