娘と二人で階段を登り一番上に腰掛けた。
クリスティが娘の隣に座りハグをして
「残念だったわね。わたしも8歳のときにお母さんを
なくしているの。だからあなたの気持ちがわかるわ。」
と慰めてくれた。
「捜査に時間がかかると思うわ。ここに突っ立てるのも可愛そうだけど、
中には入れないし、なにか私にできることはあるかしら?」
と聞いてきた。緊張からか何なのかはわからないけど、尿意を感じていた
私は、「お手洗いを使いたいの。」
彼女は何かをひらめいたように、「開いてる部屋があるから、そこを使って
いいわよ。そこならプライバシーもあるし、廊下よりは快適よ。」
そういうと私達を同じ階の東側の部屋に案内し、ドアを開けてくれた。
「検視官から質問があったりすると思うので私はあっちに戻るけど
ここを自由に使ってね。何かあったら私の携帯に電話して。」
長女が彼女の番号をもらい、家具一つないガランとした部屋に取り残された。
「クリスティいい人だね。」と私は言った。
夫の部屋と同じ造りだが、窓からの景色が違う。
この建物はコの字型なので、夫の部屋からはこちらの棟の裏側がみえる。
この部屋からはどん詰まりの横丁を挟んだ新築のコンドミニアムが見える。
週末の夜は近所のバーで飲みすぎた客がこの目立たない横丁に入り込んで
騒いだり、吐いたり、立ちションをしたりでかなりうるさいらしい。
トイレを使い、ホッとした私は娘と抱き合いまた涙を流した。
トイレの中で検視官や娘が来る前に言われたことを思い出した。
「あなたの旦那が先月警察に逮捕されたことがあったの知ってる?」
いや、そんな話を私は全然聞いていないと答えた。
「隣の住人が彼にハラスメントを受けたって警察に通報したのよ。」
何度か夫から隣の住人がチョット音を立てただけで壁をドンドンと
叩いて騒音を立てたり、一晩中テレビの音量を最大にして眠ることが
できないと言っていたことがあった。
マネージャー(クリスティ)に言って注意してくれるように頼んでも
「あの人はアルコール中毒で仕事もないしここを追い出されたら行くところも
ないし、可哀想な女なのよ。」と言って、何にもしてくれない。とこぼしていた。
娘は知っているのかしら?
そんなことを思いながら部屋に戻ると、娘は床に膝を抱えて座り一人で
泣いていた。その小さい背中が小刻みに震えている。
右手の親指の爪をかみながら彼女は涙を流していた。
続く
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